最近、仕事からの帰り道、地元の八百屋さんで異常に長いニンジンに出くわしました。その日の買い物リストにニンジンはなかったのですが、思わず買わずにはいられませんでした。私は昔から変な形の野菜が大好きなのですが、こんなニンジンは今まで見たことがありません。日本に住んでいると、長い野菜を見かけることはよくあります。50センチほどの大根はお馴染ですし、長さが1メートルも(最大2メートル)あるゴボウもありますよね。おそらく、日本の一部の地域では、表土の質がとても素晴らしいのではないかと思っています。表土の下の粘土や岩の層では、根菜がまっすぐ成長するのが難しいからです。ともあれ、それはまたの機会の研究課題にしておきましょう。ここでは、巨大野菜の世界を簡単に見ていきたいと思います。
私が買った60センチのニンジンにもかなり驚いたのですが、そのあとニンジンの世界記録をチェックしてみると、なんと6.245メートル! しかもイギリス人が作ったものでした。ノッティンガムシャーのマンスフィールドウッドハウスに住むジョー・アサートンさんが育てたもの。彼は長い野菜を育てる世界的なレジェンドで、最長のビートルート(7.956メートル)と大根(5.023メートル)の世界記録も持っています。私は最初、彼がそれほどまでに長い野菜を育てるには、きっと信じられないほど軽くて深い表土を準備しているのだろうと想像しましたが、実は、彼が栽培に使ったのは地面ではなくプラスチックのチューブだったと知って、がっかり。7mのチューブを培養土で満たし、そこに種を植えることで、ニンジンの根が途切れることなくチューブの端まで成長し続けることができるのです。温室で最大14か月もかかるそうです。
ご覧のように、ニンジンそのものはさほど特徴的ではありませんが、根の先端までの全長が測定値です。世界記録は6.245メートルですから、ジョーの忍耐力にはリスペクトします。ただ個人的に興味があるのは、やはり畑や庭の土で育てられた大きな野菜です。
イギリスでは夏の数か月間、庭師たちの働きが活発になります。大切な野菜を育てに育てて、最終的にジャイアントベジタブルの大会に参加するのです。野菜の種類に制限はありません。地面から持ち上げるのにトラクターが必要なほど巨大なカボチャや、小さな子どもほどもあるキュウリ、頭と同じくらいのタマネギなどなど、さまざまです。イギリス人は古くからガーデニングが大好きですが、コロナ禍のここ1年で、その情熱はさらに高まっています。ロックダウンにより外出が難しくなったので、多くの人が庭や農園で運動したり、新鮮でおいしい野菜を作ったりすることにフォーカスするようになりました。私の経験では、ガーデニングは本当に簡単ですが、やはりお世話がとても重要です。ロックダウンの状況下、これまで忙しくて時間がかけられなかったことにも、目を向けられる暮らしに変わりつつあります。植物を育てるための余裕が生まれたのでしょうね。イギリスのジャイアントベジタブル生産者にとって、2020年はとても貴重な1年だったようです。 9月には、世界で最も重い赤キャベツ(31.6キロ)、世界で最も長いサルシファイ(5.6メートル)、世界で最も長いビートルート(8.6メートル)という3つの世界記録が樹立されました。そして10月、ハンプシャーのリミントン出身の59歳の双子イアンとスチュアートペイトンは、イギリス史上最も重いカボチャを育てました。
WOW!!
巨大な野菜を育てるには、大きく成長する可能性を持つ品種の種子を選ぶのがまず第1の重要ポイント。そのあとは、タイミングとお世話がすべてです。成長し続けるために毎日必要なものを植物に与えるだけと言ってもいいでしょう。ジャイアントベジタブル生産者に、夏のバカンスというオプションはありません。大切な大切な野菜のお世話が最優先されるのです。
大会は、夏の終わりから秋にかけて、地元の村の見本市や大規模な郡の農産物品評会で開催され、ジャイアントベジタブル界のオスカーとも言えるマルバーン・オータムショーで最高潮のグランドファイナルを迎えます。ここで開催されるのが、カンナという植物栄養会社が主催するイギリス全国ジャイアントベジタブル・コンクール。この大会は2つのカテゴリーに分類されます。ひとつは、審査員が求める基準に正確に一致する「完璧な」標本であるかを評価する「品質」バージョン。各競技会には、審査員が何を求めているかを明確に定義したルールのハンドブックがあり、それらのルールから少しでも逸脱すると失格です。ちょっと厳しすぎるのではないかと思うほど、ルールは絶対です。もうひとつは、単純に大きさを競うもの。こちらは厳密な規定もなく、ちょっぴり面白おかしい巨大な野菜たちを楽しむコンペティションです。ルールも単純。最も重いもの、あるいは長いものが勝利です!
都心に住んでいる私には、残念ながら、この素晴らしいジャイアントベジタブルの世界に足を踏み入れる機会はありません。ですから今のところ、バルコニーにいくつかのハーブやトマト、イチゴなんかを育てています。いつか庭や農園を持って、巨大な野菜を育てたり、地元の大会に参加したりする日を夢見ています。私のなかの野菜オタク根性と、負けず嫌いな性格が、きっとそう思わせているのでしょう。ジャイアントベジタブルの生産者たちはみんな仲が良いようなので、いつかそのコミュニティに参加できたらと思っています。
大画面に巨大な野菜が登場。故郷のブリストルにある私のお気に入りのアードマン・アニメーションズは、ジャイアントベジタブルのコンテストをテーマにし、アニメーション映画「Curse oftheWere-Rabbit」(邦題『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』)を制作しています。かなりダークな描写もあるのですが、とても興味深い内容です。2006年のオスカーで長編アニメ映画賞を受賞しました。メインキャラのウォレスと忠犬グルミットの村で次々と畑が荒らされ、毎年恒例の巨大野菜栽培コンテストの開催が危ぶまれる状況になったため、ウォレスとグルミットが事件解明に乗り出します。
グルミットがヘポカボチャの大きさを計っています。
驚くほど美しいトウモロコシのドレスを纏ったレディ・トッティントン。
現在AmazonPrimeでご覧いただけるようです(日本語版はHuluでもご覧いただけるようです)。
そして本当にごくごく最近、ジャイアント・ベジタブルがハイファッションブランドとコラボしました。In the Garden With Gucci & Gerald the “Veg King”。登場するのはガーデニングが大好きなジェラルド・ストラットフォードさん。漁師を引退し、今では起きている時間のほとんどを庭仕事に費やしているという彼は、昨年、自作の巨大野菜の写真に幸せエピソードを添えてインスタグラムに投稿したところ、一躍有名になってしまいました。
インスタグラムのプロフィール欄で「巨大野菜に夢中のガーデナー」と自己紹介をするジェラルドさん。「Highsnobiety(ハイスノバイエティ)」ではジェラルドさんをスターに迎え、「GUCCI(グッチ)」の「Off The Grid」コレクションに向けたコラボレーション動画を撮影しました。昨年ローンチされたOff The Grid は、イタリアブランドGUCCIによる、より環境保護にフォーカスしたコレクションです。材質には主に、廃棄漁網や古くなったカーペット、端材から再生されたナイロンの一種などのECONYLが使われています。
グッチのキャンペーンはこちら: https://www.highsnobiety.com/p/gucci-off-the-grid-gardening-with-gerald-stratford/
Some more links:
Malvern Autumn Show: https://www.malvernautumn.co.uk/whats-on/grow/giant-vegetables/
Giant Vegetable Community Facebook: https://en-gb.facebook.com/groups/giantvegetablecommunity/
Giant Vegetable UK website: https://www.giantveg.co.uk/index.php/en/
You can read the English version of this story here: https://www.swanandlion.com/giant-vegetables/